米国獣医外科学会
American College of of Veterinary Surgoens (ACVS)は、獣医学における優れた外科手術の基準を定義し、獣医療の進歩を促し、最新の獣医外科教育プログラムを提供するアメリカの専門委員会です。
そのACVSの外科サミットが先日、アメリカのポートランド(オレゴン州)で開催され、海外研修として参加させていただきました。
COVID-19の影響でしばらくオンラインでしか開催されていませんでしたが、今年は実際に会場で全世界から外科専門医、麻酔専門医、ジェネラリストの獣医師や動物看護師たちが集まりました。
まず初日にPatellar Groove Replacement(PGR, 膝蓋骨滑車溝置換術)の実習に参加しました。講師は整形外科専門医のDr. LanzとDr. Vezzoniで、世界でも有名で数多くの手術を経験されている先生でした。
膝蓋骨脱臼(パテラ脱臼)の中でも、前十字靱帯疾患と関連した骨関節症(Osteoarthritis; OA)が重度で造溝術が適応出来なかったり、手術歴はあるが再脱臼かつOAが重度の場合など、従来の膝蓋骨脱臼の治療では治療できないような患者さんに対してインプラントを用いて膝蓋骨滑車溝を置換する手術法です。
膝蓋骨脱臼による重度のOAで跛行していた犬が、PGRによりスムースに歩けるようになり、疼痛軽減、運動機能の回復により生活の質を改善させることを目的とする手技です。
2日目からは外科専門医による講義や専門医を目指すレジデントの先生達の発表が行われました。犬猫のみならず、馬などの大動物やエキゾチックの外科や麻酔のレクチャーもありました。
口腔内腫瘍の生検方法や短頭種気道症候群の麻酔のブラッシュアップから治療法のアップデート、メスの刺入角度による切開領域の違いや手術に関するtips、会陰尿道瘻形成術の仰臥位での手術法、喉頭麻痺や腹腔内出血のレクチャー、インスリノーマ治療やトイ犬種の橈尺骨治療のアップデート、などなどたくさんのレクチャーを聞きました。
この他に聴きたい講義はたくさんあり、もし自分が分身できるなら3人くらいに分身して同時に聞きたいくらいでした。
動物看護師(Veterinary Technician; VT)のための整形外科周術期のセッションも聞きましたが、日本の獣医師レベルあるいはそれ以上の内容であり、レントゲン写真が提示されこのような状況下ではどのような治療が適切で、合併症は何が考えられるか?といった質問が講師から出され、オーディエンスのVTがどんどん応えているような形式。過去にコロラド州立大学の教育病院(Veterinary Teaching Hospital)の見学もさせてもらったことがありますが、米国の動物看護師は国家資格であり、知識と技術のレベルがかなり高く、何より責任感・意識が高いことに感動しました。今回のACVSサミットでも多くのVTが参加しており、モチベーションの高さが感じられました。
レジデントの発表では、腹腔鏡手術での局所麻酔の有効性の検証や腎移植猫の石灰化に関するretrospective study、ガバペンチンの猫の血圧に対する影響性、胸管と肋間静脈とのデバイスを用いた吻合法、などなど、誰も検証していないテキストに載っていない情報を臨床研究報告することで新たなデータが構築されており、誰も足を踏み入れていない、まさに獣医療の最先端を見ているようでした。
あとはとにかく英語力です。英語を理解することで、良質な獣医療の知識をもっと効率よく吸収できると思いました。日本に戻ってからも継続していきたいです。
今回病院のお休みをいただいて、私は初めてACVSに行かせてもらいましたが、サミットの規模の大きさと内容の充実度に驚愕しました。全て新鮮な光景で大変貴重な経験をさせていただきました。
何よりもアップデートした情報を日本に持ち帰り、皆さんのためにより良い獣医療を提供・還元できるように努めたいと思っております。日々精進です。よろしくお願い致します。
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